青空が広がる晴れた日すら
言い様のない無い鈍い痛みで台無になる程で。

今朝から気分は憂鬱だった。

何かに集中している時はそれ程感じなくても
ふとした瞬間に顔が強張っていないかと不安になる

自然な現象ではあれど自分にとっては辛くて―




soften




せっかくのお出掛けの誘いも、
このだるさと眠気には勝てず大人しくしているのだ

「―はぁ」

自分だけに聞こえる小さなため息は増してくる痛みと
それに輪をかけるような状況のためか

宿屋は混んでいて空いていた部屋はよりにもよって大部屋

『女同士』なら解ってもらえるのに―、と心で嘆いてみても
部屋に残っているのは外出を断った二人―

窓の近くの椅子に腰掛け書物を読んでいるのはバッシュで。


こんな状態じゃなければ平穏で心地いい時間なのに穏やかではない内心。
気分でも変えようとゆっくりとはソファーから立ち上がった。



「バッシュ、何か飲み物いらない?私、持っ、、、て。。。」

急にくらりとしてそのままソファーに逆戻り

、どうした」

本が机の上に無造作に置かれる音の後、
コツコツと近づいてくる足音は私の前で止まり頭上から聞こえた彼の声




「大丈夫か?」

「立眩み。すぐに治まります・・」

『ならば代わりに俺が持って来よう』と歩き出すバッシュの手を引っぱり
断りの返事をすると顔を顰めて問いかけられる

「辛そうな顔をしているぞ」

「そう見えますか?」

「ああ」

「強がっても意味ないか・・・ぁ」

しかしこんな事を言って彼がそれを受け入れてくれるだろうか?

あぁでも、バッシュは男の人だし。でも、、、

もしもここに居たのが『バルフレアなら』してくれる。と、
思われる事を頼もうとするのは無謀だろう・・・。


「・・・・・」

、何かあるなら言ってくれ」


そこまで気に掛けてくれるなら、
駄目元で言うだけ言ってしまえ。


「―あの、バッシュ」

「何だ?」

「抱っこ、して?」




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「少しでいいから、ね?」

恥を捨て上目遣いで手を合わせながらお願いした結果―







手に入れた背中から包み込むバッシュの温もり。
彼に背を預け互いの手を重ねるように腹部に回された大きな掌。


触れている彼女の胴は細く、この状況に落ち着けないバッシュは
思わずそれを口にしてしまっていた。



「―華奢だ」

間が少し開いた後が返事をした


「確かにバッシュと比べればそうかもしれないわ」

「失礼な事を言ってしまったか」

「全然。それよりごめんなさい、折角のお休みなのに」

「大して用事も無かったんだ、気にする事は無いさ」

「でもそのお陰。少し楽になってきました」

「そうか」

「うん」

、寄り掛かっても構わないぞ」

「じゃあ、お言葉に甘えて。。。。」

ゆっくりと自らの背を相手に預ける。

「ねぇバッシュ」

「なんだ?」

「お話しとかしてもいい?」

「ああ」

「別に大した話じゃないんだけど、昨日ね・・―」








ふわり、と


窓から入る風がカーテンとの髪を僅かに揺らし
柔らかく淡い香りを運んでくるその部屋で
他愛の無い会話をしながら過ごす。


しかし、どうしてだろう
唐突なの申し出受け入れているのは。

弱音を普段言わないが見せた意外な一面のためだろうか。


「・・・・・バッシュ」

「ん?」

「―、、ありがとう」

力無く聞こえたその声が眠気を伴っているのに気付き
そっと布団をかけてやった

、寝ても構わないぞ」


『大丈夫』と、フルフルと首を振ってみせるが
は布団とその心地よいバッシュの声に直ぐに夢へと誘われていった



規則正しく聞こえる呼吸、暖かい日の光
人の温もりを手に感じながら過ぎてゆく午後―



つかの間の穏やかな夢の様な現実から眠りへと落ちていく今を
幸せだと感じたのは偽りもなく。

艶やかなその髪に自分の頬が触れの後を追う様に閉じていった瞼








それから目が覚めたのは
この部屋のドアが明けられた音がした後―



「っと、悪ぃ邪魔したか?」

バルフレアはさほど悪びれた様子もなく部屋に入り、
口元を押さえ小さく笑っている

「―っこれには理由が、」

「静かにしてろよ、起きるだろ」

意識の向こうでそんな会話が聞こえてしまい
仕方なく気だるい体をゆっくりと起こし寝ぼけた眼をこする

「・・・・ねぇ、バルフレア痛み止めは持ってない?お腹痛いの」

「全部シュトーラルに置いてきたみたいだ」

「そっか。。分かったわ」

、その代わりだが今度は俺が温めてやろうか?」

「フフ、すぐそうやって言うのね」

笑いながら話すを見ていると何故だか複雑な気持ちになる。

二人の会話を遮るように言葉を発したのは無意識で

、痛みはもう無いのか?」

「ええ、もう大分いいみたい。ありがとう」

微笑んだ彼女はまたバルフレアの方を向き
体をほぐす様に腕を伸ばしながら会話を続けてしまった。

「他の皆はまだ戻ってこないの?」

「ああ、まだかかるだろうなあの調子じゃ」

「そっか、じゃあ・・・」

は楽しそうにバッシュに向かい合う様にして体を捻り
布団を引っぱりながら倒れてきた

「ダメ?」

その目で見つめてくるのは確実に確信犯だろうに。

「―・・・・・」

「一緒に寝ましょうよ」

「―――分かった。。寝ても構わない、、、だからそんなに俺を見ないでくれ」

「フフッ」

そんな甘ったるいやり取りを見せられていたバルフレアが
遠くでため息をつくのが聞こえたが、一度見られてしまっているのだ
これも介抱の内、と言って甘えないと損だろう。



「じゃあ、おやすみなさい」

そう言って、バッシュの胸に顔をうずめ今日二度目の夢の中へとおちてゆく―